レース・トゥ・イレブン 〜 毎週火曜日連載・ビリヤードの長編連載小説です 〜
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    第47話 同級生の来店
    JUGEMテーマ:連載


      「いやあ、参ったね!」
     「何が?」
     いつもの堀川ビリヤードの常連客の間でこんな会話が流れた。
     世話焼きの石黒が他の常連客を捕まえては、こう切り出すのだ。
     
     「お嬢とウッシー氏は3位タイ、ベストなんちゃら賞ももらったのは、まあ、妥当っちゃ妥当やけど」
     「で、それで?」
     「あのビギナーの、球歴数ヶ月の、あの佐倉ちゃんが、なんと!」
     「だからさ、もったいぶらずに言ってよ〜」
     ここまで期待を持たせたら、石黒のニヤニヤが止まらない。
     

     「並み居る強豪をバッタバッタとなぎ倒し」
     「なぎ倒し〜。それから?」
     「まあ、そんなに急くなって」
     相手をじらすことにかけては、石黒は天才かも知れない。
     「大会優勝候補とも言われた大阪の強豪、超イケメンの上級者を相手に・・・」
     「そりゃイケメンが悪いわ」
     関西ならではのツッコミが冴え渡る。
     
     「そのイケメンを決勝戦で見事に粉砕!優勝したんやで、すごいやろ!」
     「そらすごいわ。でもプロと組んでてんやろ?」
     「そうは言っても半分は佐倉ちゃんが撞いてるんやで?それでも楽や、言うか?」
     「い、いえ、滅相もありません。お見それしました」
     
     カウンターの裏でカレーを煮込みながら佐倉はクスクスと笑っていた。
     石黒は彼女がいるときを見計らって、わざと聞こえるような声で言うものだから、佐倉の方も恥ずかしいやら照れくさい思いだった。当然、嬉しいには違いない。
     こうしていくうち、瞬く間に彼女の快挙は常連たちの間に広まり、彼女を見る目も変わってきたのである。
     
     
     ある常連客が彼女にこう尋ねたことがあった。
     「なあなあ、佐倉さんは他の試合に出ようとか思わないの?」
     そう聞かれると彼女は決まってこう答えた。
     「そんな、あたしなんてまだまだですから」
     
     佐倉は決して嫌がってはいなかった。むしろ口元がほころんでいるくらいだから、また試合の興奮を味わいたい、優勝してみたい、という気持ちはきっとあったのだろう。
     そんな話しをしていると、カランとドアが開く音がして、一組の男女が店を訪れた。
     
     「いらっしゃいませ」と佐倉が入り口の方を見ると、そこには見慣れた顔があった。
     「カナちゃん、来てくれたの?」同級生の可南子だ。
     「うん、これ、彼氏」と同伴者を紹介すると、男性の方は「ども」とちょっと照れくさそうに会釈した。
     
     「今日は遊びで、ね」可南子はそう告げると隅の方のテーブルでビリヤードを始める。可南子の方は全くの初心者で、彼氏に基本的なことを教わりながら転がすように遊んでいた。
     
     
     しばらくすると、常連客の話しを聞くともなしに聞いていた彼氏が、佐倉の方に歩み寄ってきて
     「ねえ、ボクと一緒に撞いてもらってもいいかな? 優勝したんだって?」
     そう言われ、ここのところ気をよくしていた佐倉は、特に断る理由もないのでその申し出を受けることにした。
     そうなると手が空いてしまった可南子は椅子に座って、彼氏の応援である。
     
     「5先でいい?」と彼氏が聞くと、佐倉は何のためらいもなく「ええ、お願いします」そう言って、ラックの方から自分のキューを取りに行った。そうした様もだんだんと板に付いてきた様子だ。
     
     
     「ではあらためて、よろしくお願いします」
     二人は一礼を交わすと、バンキング勝負から対戦が始まった。
     
     
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      | 第三章 カモナ・マイホーム | -
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        -- あらすじ --
        この物語は、主人公−佐倉がビリヤードを通じて様々な人と出会い、成長する様を描いていきます。 大学に通う一年生の佐倉は、同じ京都で間借りしている部屋の大家を通じ、ビリヤード場で働くことになります。人と接することが苦手で、自分の殻にこもっている彼女の心を、店の常連客らが徐々に開いていきます。 アットホームな雰囲気、厳しい先輩プレイヤーやプロの存在によって彼女の心境が変化していき、本格的なプレイヤーに成長していきます。やがてビリヤードがなくてはならない存在になり・・・。 序章で見せた佐倉の涙の意味するものはいったい・・・? これから始まるビリヤードのドラマに、しばしのお時間お付き合いください。

        -グーバーウォーク-



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