レース・トゥ・イレブン 〜 毎週火曜日連載・ビリヤードの長編連載小説です 〜
第47話 同級生の来店
2011.10.25.Tue 22:48
「いやあ、参ったね!」
「何が?」 いつもの堀川ビリヤードの常連客の間でこんな会話が流れた。 世話焼きの石黒が他の常連客を捕まえては、こう切り出すのだ。 「お嬢とウッシー氏は3位タイ、ベストなんちゃら賞ももらったのは、まあ、妥当っちゃ妥当やけど」 「で、それで?」 「あのビギナーの、球歴数ヶ月の、あの佐倉ちゃんが、なんと!」 「だからさ、もったいぶらずに言ってよ〜」 ここまで期待を持たせたら、石黒のニヤニヤが止まらない。 「並み居る強豪をバッタバッタとなぎ倒し」 「なぎ倒し〜。それから?」 「まあ、そんなに急くなって」 相手をじらすことにかけては、石黒は天才かも知れない。 「大会優勝候補とも言われた大阪の強豪、超イケメンの上級者を相手に・・・」 「そりゃイケメンが悪いわ」 関西ならではのツッコミが冴え渡る。 「そのイケメンを決勝戦で見事に粉砕!優勝したんやで、すごいやろ!」 「そらすごいわ。でもプロと組んでてんやろ?」 「そうは言っても半分は佐倉ちゃんが撞いてるんやで?それでも楽や、言うか?」 「い、いえ、滅相もありません。お見それしました」 カウンターの裏でカレーを煮込みながら佐倉はクスクスと笑っていた。 石黒は彼女がいるときを見計らって、わざと聞こえるような声で言うものだから、佐倉の方も恥ずかしいやら照れくさい思いだった。当然、嬉しいには違いない。 こうしていくうち、瞬く間に彼女の快挙は常連たちの間に広まり、彼女を見る目も変わってきたのである。 ある常連客が彼女にこう尋ねたことがあった。 「なあなあ、佐倉さんは他の試合に出ようとか思わないの?」 そう聞かれると彼女は決まってこう答えた。 「そんな、あたしなんてまだまだですから」 佐倉は決して嫌がってはいなかった。むしろ口元がほころんでいるくらいだから、また試合の興奮を味わいたい、優勝してみたい、という気持ちはきっとあったのだろう。 そんな話しをしていると、カランとドアが開く音がして、一組の男女が店を訪れた。 「いらっしゃいませ」と佐倉が入り口の方を見ると、そこには見慣れた顔があった。 「カナちゃん、来てくれたの?」同級生の可南子だ。 「うん、これ、彼氏」と同伴者を紹介すると、男性の方は「ども」とちょっと照れくさそうに会釈した。 「今日は遊びで、ね」可南子はそう告げると隅の方のテーブルでビリヤードを始める。可南子の方は全くの初心者で、彼氏に基本的なことを教わりながら転がすように遊んでいた。 しばらくすると、常連客の話しを聞くともなしに聞いていた彼氏が、佐倉の方に歩み寄ってきて 「ねえ、ボクと一緒に撞いてもらってもいいかな? 優勝したんだって?」 そう言われ、ここのところ気をよくしていた佐倉は、特に断る理由もないのでその申し出を受けることにした。 そうなると手が空いてしまった可南子は椅子に座って、彼氏の応援である。 「5先でいい?」と彼氏が聞くと、佐倉は何のためらいもなく「ええ、お願いします」そう言って、ラックの方から自分のキューを取りに行った。そうした様もだんだんと板に付いてきた様子だ。 「ではあらためて、よろしくお願いします」 二人は一礼を交わすと、バンキング勝負から対戦が始まった。 | 第三章 カモナ・マイホーム | -
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