レース・トゥ・イレブン 〜 毎週火曜日連載・ビリヤードの長編連載小説です 〜
第43話 狂わされた機械
2011.09.28.Wed 02:20
JUGEMテーマ:連載
二色のベストの二人がそれぞれのキューを持って立ち、間近でささやき合っていた。 それに対して、佐倉と龍のペアはファイナルを楽しんでいるように見えた。しかし、佐倉の疲労はすでに無視できないものになっていた。慣れない緊張感の連続で、自分でも気付かないほどに気力や体力を使い果たしていたのである。 龍は当然のこととして佐倉の疲労に気付いていた。龍はその経験からスタミナをコントロールすることには長けていたが、自分のショットだけでなく、佐倉がシュートしやすい位置に常にポジションをコントロールすることに細心の注意を払い続けていたし、彼とて例外なく疲労を蓄積してきたのである。 酒井のペアはややリードを保っていたが、ここへ来て回って来た球は不運にも遠い薄球である。ショットした龍の「太さ」が発揮されたというべきだろうか。 お嬢はなるほどと思って、酒井の表情がわずかに紅潮しているのを認めた。それ以外は全く普段と変わり無さそうに見えるのだが・・・。そして、ふと龍の方を見たときに、彼の口元がわずかに微笑んでいるような気がしたのである。 酒井は、同じペアの織田と比べて、明らかにポジション重視の考え方だ。正確にシュートして、自分で決めたラインに忠実に手球をコントロールする。それがビリヤードのあるべき姿だと信じている。それに比べて織田のショットは大ざっぱで、自分の予測したポジションを突いてこない。酒井がいらつく原因はそのあたりだったのだろう。クールに見える外見とは裏腹に、酒井の心の中では何かがメラメラと燃えさかっていたのである。まるで彼の着ているえんじ色のベストのように。
あと2セット取れば優勝、という次のラック。とうとう酒井のシュートミスが目立つようになってきた。
| 第二章 はじめての試合 | -
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