レース・トゥ・イレブン 〜 毎週火曜日連載・ビリヤードの長編連載小説です 〜
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    第35話 本領発揮
    JUGEMテーマ:連載

     
     ライムグリーンのテーブル上には6番ボール、そして8番、9番ボール。手球から6番ボールまでの距離は4ポイントほど。龍プロ一人であれば難なく取り切っているだろう。
     そして構えているのはキューを握って数ヶ月の佐倉である。まだ固まっていないフォームで構える姿はどこか不安定さを呈していたが、その先には狙う場所を正確に見極めようとするプロの姿があった。

     「もう少し右、そう、そのまま肘だけを動かして」
     「はい」自信なさげに答える佐倉の声はハリがなかった。


      すーっと音もなく真っ直ぐに引かれたキュー、そして次の瞬間にはスルッと肘を支点にして前へと送られる。コン!というやや甲高い音をさせて手球がキュー先から弾かれる。佐倉は構えを崩さずにじっと耐えていた。
     「入れ!」そう声に出して叫びたいぐらいだった。
     
     的球の方から見ていた龍プロには確信があった。「このショットは入る!」
     するするとラシャを滑る手球は弱々しいものではあったが、6番ボールに当たると同時にポケットの方へと真っ直ぐに導いた。カコンという音がして二人は安堵した。
     
     「さて、オレも頑張らなきゃな」己を発憤させた龍プロは、大きな料の手のひらで頬をパンと叩き、気合いを入れ直した。
     この8番を入れることはもちろんのこと、次の9番を狙うのは佐倉である。完璧なポジションに手球を運んでおかないといけない、難易度の高いショットである。
     
     「しびれるゼ」そう言うと右の口元がニヤリと引き上がった。
     入念に構え、キューを素早くしごくと、持ち前の柔らかいショットで8番をサイドポケットに放り込み、手球は9番の真っ正面、ベストポジションと言える位置につける。
     
     「よし、佐倉の出番だ。ここはじっくりと狙おう」
     いくら真っ直ぐとは言え、試合の緊張感では厚みがぼやけたり、なかなか普段通りにはいかないものである。しかし、ここでも9番の先には鋭い目が光っており、佐倉のショットをより完璧なものへとアドバイスするプロの姿があった。

     「いいぞ、これなら入る。迷わずスパッとキューを出せ」
     「はい!」先ほどのショットで少し自信を取り戻した佐倉は、元気に答えた。
     
     的球に対してキューが真っ直ぐに出るように、肘を意識して何度も素振りをし、またゆっくりとキューを引いてそこからスパッとキューを出した。放たれた手球は先ほどとは打って変わったスピードのある球で、カンという音と共に9番ボールを一直線に弾き飛ばした。
     カコン!という快音と共に9番ボールはポケットに吸い込まれた。ようやく1セットを返すことができ、二人は喜びのあまりにハイタッチする。
     「この調子でいこう」


     佐倉がラックして龍がブレイクをする。ドカン!という凄まじい音がした。相手ペアものけぞるような激しいブレイクだった。佐倉が店で覚えたラックの仕方が活かされたようで、ブレイクで3球がポケットインし、残り6球となる。
     次は佐倉が1番ボールを狙う番だ。しかし簡単な球ではない。
     
     「ここだ。見えるか?」と狙い点を指さす龍。
     「はい、でも難しいです」と自信なさそうな佐倉。
     「ここに球があると想像しろ。どうだ、見えてきたか?」
     「ぼやっとした感じで、あんまり」試合中に他人の厚みを見るのは難しい。
     「じゃあ、そのまましごいてみろ」
     「はい」言われたようにやってみる佐倉。
     「もう少し下がって左手を真っ直ぐ出して、もう一度」
     言われることの意味はよくわからなかったが、佐倉は信じてやってみる以外に方法はなかった。
     「はい、こんな感じですか?」
     「だいたいいいだろう。それで行ってみよう。ただし、ほんの少し下を撞いて」
     
     佐倉はブリッジを少し、といってもどの程度かわからないので、心持ち下げてストロークしてみた。1番ボールの向こうには、うんうんと頷く龍の姿が見え、そのままの構えで思い切ってショットをしてみた。
     距離もありやや薄めの難しい球だったが、見事にポケットインし、短クッションに当たった手球はやや回転で方向を変えて跳ね返る。しかし、止まったポジションは残念ながら他の球に塞がれる格好となった。
     
     「すみません」と佐倉は申し訳なさそうに頭を下げた。
     「いや、気にすんな。大丈夫だから安心していけ!」
     そう言った龍はジャンプキューを取り出すと、的球の方へ何度も構えた。その眼力の凄さといったら、対戦相手がひるんでしまうような迫力だった。
     「絶対に入れてやるんだ」という心の声がダイレクトに伝わってくるような気さえした。
     
     その通り、ダン!と振り下ろされたキューは手球を軽く飛び上がらせ、5番ボールを飛び越えて的球に真っ直ぐに向かっていく。的球はまるで直接狙ったかのようにポケットに吸い込まれていった。


     佐倉はこのショットを見て、龍プロが、自分が想像もできない高度な技術で自分のミスをカバーしようとしているのを直感的に感じ取った。「あたしも頑張らないと!」そう思わせられたのである。

     決して楽な球にはならなかったが、今度も佐倉はしっかりと厚みに向かって構え、テーブル上の球に集中していた。自分が期待されていること、それは過剰なパフォーマンスではなく、しっかり一球一球を狙って行くこと。冷静さを取り戻した佐倉には、日頃の練習での感覚がより鮮明に呼び起こされていく。

     さっきまで広く感じていたテーブルがより狭く、そして的球との距離がより近く感じるようになってきた。ポケットし続けることで、ここに当てればポケットするというポイントも、よりハッキリとイメージできるまでになっていく。


     気がつけば残り2球にまでなっていた。8番ボールをスパッとしたキュー出しでポケットする佐倉。やや難しいフリながらも慎重に沈める龍プロは、この日のゲームで初めてのマスワリを記録した。


     「おめでとう、マスワリだよ」ハイタッチしながら龍はそう告げた。
     「え?そうだったんですか?」驚いたのは佐倉だった。無我夢中でショットをしていたので気付かなかったのだ。

     佐倉はピンと来ていなかったが、相手ペアは「おいおい、マスワリかよ」とただ事では無かった。
     「あいつ、C級っていうことになってるけど、もっと上の実力なんじゃ」
     「しかしよく入れるね、感心してる場合じゃないけど」


     ハンデ戦のこの試合、相手側は4セット先取、一方の龍・佐倉ペアはプロがいるので5セット先取となる。スコアは3対2となり、以前相手ペアが有利なままゲームは続く。

     勢いに乗っているのは龍・佐倉ペアだが、果たして・・・。

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      | 第二章 はじめての試合 | -
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        -- あらすじ --
        この物語は、主人公−佐倉がビリヤードを通じて様々な人と出会い、成長する様を描いていきます。 大学に通う一年生の佐倉は、同じ京都で間借りしている部屋の大家を通じ、ビリヤード場で働くことになります。人と接することが苦手で、自分の殻にこもっている彼女の心を、店の常連客らが徐々に開いていきます。 アットホームな雰囲気、厳しい先輩プレイヤーやプロの存在によって彼女の心境が変化していき、本格的なプレイヤーに成長していきます。やがてビリヤードがなくてはならない存在になり・・・。 序章で見せた佐倉の涙の意味するものはいったい・・・? これから始まるビリヤードのドラマに、しばしのお時間お付き合いください。

        -グーバーウォーク-



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