レース・トゥ・イレブン 〜 毎週火曜日連載・ビリヤードの長編連載小説です 〜
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    第33話 試合デビュー
    JUGEMテーマ:連載

     
     ビリヤードはスポーツかレジャーか? それは試合においても疑問に思われることがあるかも知れない。ときにジーンズでも参加可能なカジュアルな試合もあれば、ドレスコードに合わせてネクタイやベストが必要な試合もある。一方で紳士淑女の社交場のように華やかな試合もあり、この試合はその社交的要素の高い試合と言える。
     ビリヤード堀川のようないわゆる玉屋とは違い、倉庫を改装したような高い天井に板張りの床、オシャレなバーカウンターもあって、プールバーというよりもどちらかと言えばダンスホールに近い雰囲気。
     天井高く設置されたダウンライトはホール全体を華やかに照らし、全体としては薄暗いが、ビリヤードテーブルの上には専用のダウンライトが点けられていて、ライムグリーンのラシャを隅々まで照らし出す。

     


      広々とした空間に12台のテーブルが整然と並んでいて、9個のボールと手球がそれぞれフット側クッションにきれいに並べられている。テーブルたちはプレイヤーを静かに待っていた。

     32組、合計64名のプレイヤーたちはそれぞれに自分たちのキューを組み立てて、大きな模造紙に書かれたトーナメント表に見入ったり、そわそわと雑談をしたり、集中力を高めるために目を瞑っていたりした。


     「一瞬、誰かわからなかったよ。」と龍プロがお嬢にひそひそと呟いた。
     「でしょう?」と得意げに答えるお嬢から思わず笑みがこぼれる。もちろん、佐倉のことである。堀川の常連たちでさえ、ジャージ姿以外の佐倉を見たことがある者は少なかった。

     その佐倉は、天井を見上げたり、所在なげにきょろきょろと周りを眺めていた。
     「落ち着かない? 初めてだから無理もないけど。」牛島が佐倉を気遣ってそうささやいた。
     「うん、ビリヤードの試合を見るのも初めてだし、本当にあたしなんかが出ていいのかな?って。」佐倉がそう思うのも無理はない。しかし、その割には少し落ち着いているようにも見える。
     「その服、すごく似合ってるよ。いつもそんなだといいのに。」牛島が少し顔を赤らめながらそう言うと、佐倉はやはり喜んで「ありがとう。それだけでも出てよかったって思う。」と笑顔を見せた。佐倉は笑うことで少し緊張が和らいだような気がした。

     しばらく無言の状態が続いて、佐倉はちょっと勇気を振り絞って牛島に聞いてみた。「ねえ・・・」
     「うん?」
     「龍プロが言ってたけどさ。あたしたち、優勝できると思う?」
     牛島は笑いながら、言葉を選んでいるような感じで答えた。「そうだね。この32組の中で優勝できるのはたったの1組。みんなにチャンスはあるけど、運も実力もあるし・・・。」
     「うんうん。」
     「結局のところ、ボクにはわからないかな?」


     会場内は選手たちの歓談の中でざわついていた。
     「えー、では、選手の呼び出しを始めます。最初に呼ばれた組が対戦カードを取りに来てください。」
     アナウンスが流れると選手たちは一斉に振り返り、ピンと張り詰めた空気が場内を駆け巡る。
     「順番に選手を呼び出します。試合番号1番・・・」
     呼ばれた選手らが次々に運営席、試合テーブルの方に向かう。ざわざわと人が動き始め、みるみるうちにテーブルに人が埋められていき、各テーブルに4人がそれぞれ集まるとあちこちで「よろしくお願いします。」という声が聞かれ始めた。

     「じゃ、行ってきます。」とお嬢と牛島のペアは二人に手を振ってテーブルへと向かっていった。
     佐倉は「頑張ってください!」と言うと、彼らの姿を頼もしく感じていた。


     「オレたちは2巡目だから、しばらく試合を観察していようか。」と龍プロが佐倉に言うと、佐倉は「はい!」と答え、二人は席を移動して試合が見やすそうな場所に移動した。

     試合を見ているうちに、だんだんと緊張感が増していく佐倉。しかし見ていると、球を外して悔しがっている姿や、パートナーのナイスショットをほめる姿などは普段見ているものと何となく近いようにも感じてくる。
     ややカジュアルな試合だからか、緊張感に臆する気持ちと自分もプレイしてみたい気持ちが半々になり始めてきた。

     「そんなに緊張しなくても大丈夫。オレが頑張るから気楽に楽しんでくれたらいいよ。」龍プロは佐倉の両肩に、大きな手でポンと叩いた。その手のぬくもりを肩に感じると、佐倉は自分でも驚くほど、緊張のために肩がすくんでいるのに気付いた。すーっと深呼吸すると、肩の力がほどけ、気持ちが落ち着いたようだ。リラックスしてくると、さっきまでと違って、落ち着いて試合や周囲の状況が見えてくるようになってきた。


     龍プロという頼れる存在があるからか、佐倉は初めての試合でもそれほど緊張せずに過ごすことができた。やがて試合が進んでいき、いくつものテーブルで試合が終了していくと、いよいよ佐倉たちが運営席から呼び出された。
     
     「よし、行こう!」
     「はい!」
    師弟のように、あるいはカルガモの親子のように、佐倉は龍プロのあとをくっついて行き、試合テーブルに着き、相手ペアと固い握手をして挨拶をする。
     バンキングを任された佐倉は自分のキューを取り、相手の選手と並んでショットをする。
     コン!という音がして2個のボールが反対側のクッションに当たり、自分たちの方に跳ね返ってくる。手前のクッションにより近い方が先行を取れるのでナインボールでは有利だ。
     相手選手よりやや強い力で放たれたショットは、手前のクッションに当たってから数十センチも転がっていった。一方の相手選手は手前のクッションから数センチの位置に付ける。バンキングでは相手の勝利である。

     「ごめんなさい。」と佐倉が頭を下げると、龍プロは「弱いよりかはずっといい。」と褒めた。
     佐倉はそれを意外に感じたが、「強くショットをした方がいいのかしら?」とぼんやりと思った。


     バンキングの相手がラックを丁寧に組むと、もう一人がブレイクキューを持ってヘッド側にスタンバイし、一礼をしてからドカン!という大きな音で9個のボールをテーブル上に炸裂させた。
     2個のボールがポケットし、引き続いてもう一人が次のショットを始めた。

     

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      | 第二章 はじめての試合 | -
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        -- あらすじ --
        この物語は、主人公−佐倉がビリヤードを通じて様々な人と出会い、成長する様を描いていきます。 大学に通う一年生の佐倉は、同じ京都で間借りしている部屋の大家を通じ、ビリヤード場で働くことになります。人と接することが苦手で、自分の殻にこもっている彼女の心を、店の常連客らが徐々に開いていきます。 アットホームな雰囲気、厳しい先輩プレイヤーやプロの存在によって彼女の心境が変化していき、本格的なプレイヤーに成長していきます。やがてビリヤードがなくてはならない存在になり・・・。 序章で見せた佐倉の涙の意味するものはいったい・・・? これから始まるビリヤードのドラマに、しばしのお時間お付き合いください。

        -グーバーウォーク-



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