レース・トゥ・イレブン 〜 毎週火曜日連載・ビリヤードの長編連載小説です 〜
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    第31話 全然なってない!!
    JUGEMテーマ:連載



     第二章 はじめての試合


    第31話 全然なってない!!

     日本の中でもっとも美しい季節は?と問われると「秋」と答える人も多いことだろう。京の町にも秋が訪れ、厳しい暑さから解放されて澄んだ空が天高く晴れ渡り、一年のうちでもとても過ごしやすい季節の到来である。

     秋と言えばスポーツの秋、芸術の秋など、何か一つの物事に集中するのにとてもいい季節である。インドアスポーツの一つ、ビリヤード。インドアなのでいつでも快適には違いないが、気候が安定していて湿気などの影響も受けにくく、プレイに集中しやすいともなれば、普段よりちょっとぐらい調子のいいショットが期待出来るかも知れない。


      佐倉は相変わらず練習熱心で、それゆえ飲み込みも早かった。ビリヤードというのは難しそうでいて、一ヶ月ほども真剣に頑張ればそこそこの腕前にはなるようである。彼女は競技プレイヤーとしてはまだビギナーに毛が生えた程度だったとしても、その辺の、遊びで転がしている連中が相手なら、きっといい勝負になるだろう。

     夜の堀川ビリヤードには、いつものようにお嬢の赤いDUCATIが駐まっていて、中では練習熱心な試合出場者や普段の常連客らが入り交じって球の音をホールに響かせていた。


     カランとドアの音が鳴り、扉を広くと黒いベストを着た少し大柄な男が入ってきた。男の背中には派手な龍の刺繍。龍プロの登場である。
     「よう。」と大きな太い声で皆に挨拶すると、重そうなキューケースを担いで店内をぐるりと見渡した。L字型の店内の右奥の隅っこで練習している佐倉を見つけると、マスターに一礼して彼女の方に歩み寄っていった。

     「こんばんは。龍プロ。」と少し怯えたような表情で遠慮がちに挨拶をする佐倉。
     龍プロはそんな佐倉を気にもとめずに、「キュー、替えたのか?」と右手を差し出した。
     「はい。前のだとケースに入らなくって。」と新しい相棒を龍に手渡す佐倉。

     龍は数回キューをしごいてバラ球を撞くと、カコーン!という音と共に先球が目に見えないぐらいのスピードでポケットに落とし込まれた。さらに、さすがプロと思わせるような鋭い回転のかかった押し球のショット、先球に当たった次の瞬間に強烈なバックスピンを披露した。キュー先を手の腹でポンポンと叩いてしならせると、「うん、いいキューだ。」と言って彼女に返した。

     それを見ていた佐倉も、周囲の常連もキョトンとした表情だった。そんなにいいキューだったのか、と。


     龍プロは自分のキューを手早く組み始め、彼女にこう告げた。「いよいよ明日だな。2〜3時間ほど、ちょっとハードになると思うが、練習につきあってもらうぞ。」
     「はい!」今度は元気よく返事をした佐倉だった。


     ひたすらナインボールのラックを組んで、ブレイクとショットを交互に行う。二人が撞くのはこれが初めてである。一ヶ月も前から練習をしているお嬢と牛島のペアには出遅れてしまっている。
     まず重要なのは佐倉の上達の程度、そして龍プロがいかに的確な指示を彼女に与えられるか。この二点にかかっていると言っても過言ではない。たった一日で追いつくため、佐倉にとってはある意味、非常にハードな練習である。

     当然、初心者がいきなりハードなブレイクショットなどできるものでもなく、龍は非常に的確な初心者向けのアドバイスを彼女に施すのだった。「思い切り強く、なんて考えなくていい。最初は1番の真ん中に強めのストップショットを撞く感じでいいから。」
     手球を置く場所も、「ここ」と決めてあげれば彼女はその通りに忠実に従った。
     アドバイスを受けたブレイクショットは、軽い音であまり強く割れなかったが、十分に散ってくれて1番ボールがサイドポケットに入ってくれた。
     
     「それでいい。」無用な言葉はあまり言わないタイプの龍は言葉少なだ。しかし逆にそのことが彼女の集中を妨げない程度に良かったのだろう。少しずつ彼女にも自信が芽生えてきた。


     ペアマッチでは完全に交互にショットする。ミスをすれば相手ペアに順番が回る。レベルが高い者同士が組んでいるのと違い、狙った球を思うようにポケットすることが難しい。
     それでも、彼女のショットの一つ一つを熱心に観察し、彼女の持つショットのクセを分析してアドバイスの方法を模索する。
     一方で龍の方も、彼女の残り球を受けて、それをポケットし、さらに彼女が撞きやすいポジションに的確にコントロールしようと心がける。

     難しい角度のショットが決まると「ナイスショット!」と周りの客にも聞こえるような大きな声で龍が言う。彼女にしてみればちょっと照れくさかったが、それが自信にもつながって、だんだんとプレイそのものが楽しく感じられた。
     とにかく、龍プロの指示を信じていれば、彼が言うように優勝を狙える・・・のかも知れない。


     結局、みっちりと3時間も練習して、その密度の濃さに佐倉も半ばヘトヘトに疲れてしまった。
     龍はホテルを取って休もうと思っていたが、店のマスターの厚意により、店の中に泊めてもらうことにした。


     ちょうど、お嬢たちも練習を終え、明日の試合に備えて今日は早めに引き上げることにし、店を出ようとしていた。佐倉はキューを持ち出すのを忘れ、慌てて店内に戻ってキューを分解し、箱形のキューケースに仕舞って再び店を後にしようとする。


     店を出たら待ち構えていたのはお嬢だった。DUCATIのエンジンはまだかかっていない。
     「どうしたんだろう?」と佐倉は疑問に思った。


     「ねえ。」と話しかけるお嬢。
     彼女が佐倉に用件がありそうなのは薄々気付いていたが・・・。
     「な、なんですか?」おそるおそる尋ねる佐倉。
     「ちょっとね、あなた・・・」佐倉のすぐ間近まで近づいて両の眼をのぞき込む。ドキドキする佐倉。
     そして吐き捨てるように「全っ然!! なってないわ。」と言い放った。
     
     佐倉はショックのあまり、今にも泣き出しそうな顔になってしまう。
     まさか、いったい、彼女が何をしたと言うのだろう?

     

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        -- あらすじ --
        この物語は、主人公−佐倉がビリヤードを通じて様々な人と出会い、成長する様を描いていきます。 大学に通う一年生の佐倉は、同じ京都で間借りしている部屋の大家を通じ、ビリヤード場で働くことになります。人と接することが苦手で、自分の殻にこもっている彼女の心を、店の常連客らが徐々に開いていきます。 アットホームな雰囲気、厳しい先輩プレイヤーやプロの存在によって彼女の心境が変化していき、本格的なプレイヤーに成長していきます。やがてビリヤードがなくてはならない存在になり・・・。 序章で見せた佐倉の涙の意味するものはいったい・・・? これから始まるビリヤードのドラマに、しばしのお時間お付き合いください。

        -グーバーウォーク-



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