レース・トゥ・イレブン 〜 毎週火曜日連載・ビリヤードの長編連載小説です 〜
第31話 全然なってない!!
2011.07.05.Tue 07:00
JUGEMテーマ:連載
日本の中でもっとも美しい季節は?と問われると「秋」と答える人も多いことだろう。京の町にも秋が訪れ、厳しい暑さから解放されて澄んだ空が天高く晴れ渡り、一年のうちでもとても過ごしやすい季節の到来である。 秋と言えばスポーツの秋、芸術の秋など、何か一つの物事に集中するのにとてもいい季節である。インドアスポーツの一つ、ビリヤード。インドアなのでいつでも快適には違いないが、気候が安定していて湿気などの影響も受けにくく、プレイに集中しやすいともなれば、普段よりちょっとぐらい調子のいいショットが期待出来るかも知れない。 佐倉は相変わらず練習熱心で、それゆえ飲み込みも早かった。ビリヤードというのは難しそうでいて、一ヶ月ほども真剣に頑張ればそこそこの腕前にはなるようである。彼女は競技プレイヤーとしてはまだビギナーに毛が生えた程度だったとしても、その辺の、遊びで転がしている連中が相手なら、きっといい勝負になるだろう。 夜の堀川ビリヤードには、いつものようにお嬢の赤いDUCATIが駐まっていて、中では練習熱心な試合出場者や普段の常連客らが入り交じって球の音をホールに響かせていた。
「こんばんは。龍プロ。」と少し怯えたような表情で遠慮がちに挨拶をする佐倉。 龍は数回キューをしごいてバラ球を撞くと、カコーン!という音と共に先球が目に見えないぐらいのスピードでポケットに落とし込まれた。さらに、さすがプロと思わせるような鋭い回転のかかった押し球のショット、先球に当たった次の瞬間に強烈なバックスピンを披露した。キュー先を手の腹でポンポンと叩いてしならせると、「うん、いいキューだ。」と言って彼女に返した。 それを見ていた佐倉も、周囲の常連もキョトンとした表情だった。そんなにいいキューだったのか、と。
当然、初心者がいきなりハードなブレイクショットなどできるものでもなく、龍は非常に的確な初心者向けのアドバイスを彼女に施すのだった。「思い切り強く、なんて考えなくていい。最初は1番の真ん中に強めのストップショットを撞く感じでいいから。」
難しい角度のショットが決まると「ナイスショット!」と周りの客にも聞こえるような大きな声で龍が言う。彼女にしてみればちょっと照れくさかったが、それが自信にもつながって、だんだんとプレイそのものが楽しく感じられた。
| 第二章 はじめての試合 | -
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