レース・トゥ・イレブン 〜 毎週火曜日連載・ビリヤードの長編連載小説です 〜
第28話 Cクラスへ
2011.06.15.Wed 01:30
JUGEMテーマ:連載 龍プロが去った後の店の中では、客たちが立ちながらああだこうだと話し合っていた。たまに店に顔を出していた年配の婦人、彼女がビリヤードをすること自体知られていない上に男子プロを打ち負かしてしまうほどの腕前とは、思いも寄らなかったからだ。そして繰り広げられた闘いの余韻は客たちを興奮状態にさせていた。 佐倉は牛島とお嬢に囲まれた輪の中にいた。牛島は目の前でプロの熱戦が観れたことに感激し、サインをもらい損ねたことを後悔した。お嬢は「龍って意外にいい男ね。」と評価する。この日のヒロイン、大家も龍プロのことを気に入った様子で、「好青年だし、まだまだ強くなるわね、あの子は。」と、勝者の余裕であろうか、そう述べた。
一方でペアマッチ出場予定のお嬢・牛島のペアと佐倉は試合のための練習をひたすらしていた。試合まで時間はたっぷりあるが、ペアマッチでは一打ごとに交互にショットをするため、お互いの息が合っていることは勝利への必須条件とも言える。なぜなら、お互いのベストポジションが必ずしも一致しないからで、ポジショニングをする上では相手のクセをお互いによく知っておく必要があるからだ。 佐倉の方はストップショットをひたすら覚えるように指導されていた。あまりに短いレッスンだったが、その場で見ていた石黒が意図をくみ取って指導することにした。周囲からも世話焼きと呼ばれるほどであるから、たくさんのボールを抱えながら、佐倉のショットごとに次の的球をセットしてあげたり、自分のプレイをさておいても面倒を見てあげるところが彼らしい。 15球をワンラックとして、10ラックもすれば球をセットしている石黒の方も疲れてくる。「あたし一人でできますから」と言うと、「そうさせてもらうわ。」と石黒が先に根負けしたぐらいである。店番もあり、合間を縫っての練習をひたむきにやっている姿は、石黒やマスターらも感心した。彼女にとっては、「新しい明確な目標」と「やるべきこと」が決まっていて、忠実にそれを成し遂げている感覚だった。あの、テトリスをクリアしようと躍起になっているときの感覚とそれほど変わらない。あるいは体を動かしている分だけ充実感が勝っているかも知れない。 お嬢と牛島のペアは叱ったり叱られたり、楽しそうにやっているが、彼らのことを気にもとめずに練習する佐倉の姿を見て、彼らもまたいい影響を受けようとしていた。
| 第一章 ビリヤード場へようこそ | -
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