レース・トゥ・イレブン 〜 毎週火曜日連載・ビリヤードの長編連載小説です 〜
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    第28話 Cクラスへ
    JUGEMテーマ:連載


      龍プロが去った後の店の中では、客たちが立ちながらああだこうだと話し合っていた。たまに店に顔を出していた年配の婦人、彼女がビリヤードをすること自体知られていない上に男子プロを打ち負かしてしまうほどの腕前とは、思いも寄らなかったからだ。そして繰り広げられた闘いの余韻は客たちを興奮状態にさせていた。

      佐倉は牛島とお嬢に囲まれた輪の中にいた。牛島は目の前でプロの熱戦が観れたことに感激し、サインをもらい損ねたことを後悔した。お嬢は「龍って意外にいい男ね。」と評価する。この日のヒロイン、大家も龍プロのことを気に入った様子で、「好青年だし、まだまだ強くなるわね、あの子は。」と、勝者の余裕であろうか、そう述べた。
     輪の中で佐倉は浮かない顔をしていた。それもそのはず、いきなり試合にエントリーすることになった上、課題まで与えられたのだ。「はあ。」とため息をつく佐倉にお嬢が肩をポンと叩き、「大方はプロが入れてくれるから大丈夫よ。」と慰める。
     牛島は鼻にかかったメガネを人差し指でくいと持ち上げると「プロのことだから、当然、狙ってくるでしょ。」と佐倉に軽いジャブをお見舞いする。
     「あたしたちも狙うわよ!」そう力強く声に出したお嬢は、ペアマッチのパートナーである牛島の首根っこを掴んでテーブルへと向かっていった。「お、おう」と運ばれながら佐倉に手を振る牛島からは、「頑張ってね。」という声が聞こえた気がした。


     翌日になると、昨日の興奮覚めやらぬ堀川ビリヤードでは14−1がちょっとしたブームになっていた。最初はスコアの付け方に戸惑っていた客たちも、マスターらベテランプレイヤーの指導を少し受けると、意外に取っつきやすいゲームだとわかる。なかなかランが出ずにやきもきするものもいたが、元々は初心者から上級者まで受け口の広いゲームなので、一度面白さに取り憑かれるとハマりやすいゲームかも知れない。

     一方でペアマッチ出場予定のお嬢・牛島のペアと佐倉は試合のための練習をひたすらしていた。試合まで時間はたっぷりあるが、ペアマッチでは一打ごとに交互にショットをするため、お互いの息が合っていることは勝利への必須条件とも言える。なぜなら、お互いのベストポジションが必ずしも一致しないからで、ポジショニングをする上では相手のクセをお互いによく知っておく必要があるからだ。

     佐倉の方はストップショットをひたすら覚えるように指導されていた。あまりに短いレッスンだったが、その場で見ていた石黒が意図をくみ取って指導することにした。周囲からも世話焼きと呼ばれるほどであるから、たくさんのボールを抱えながら、佐倉のショットごとに次の的球をセットしてあげたり、自分のプレイをさておいても面倒を見てあげるところが彼らしい。
     ようやくビリヤードを始めたばかりで不安定な佐倉が、真っ直ぐのストップショットだけは少し自信を持って撞くことができるようになってくる。短い距離からやや長い距離へ、慣れないフォームで筋肉痛になりながらも黙々と課題をこなしていく。
     佐倉自身、ビリヤードに向いているかどうかは実感がなかったが、彼女はとにかく辛抱強いのである。石黒も感心したが、「休憩しようか」とでも言わない限り、自分から辞めようとはしない。延々と一つのことを繰り返しすることができるのは、あらゆるスポーツにおいて一定の「資質」があると言って良いだろう。むしろ飽きっぽい男子の方が、そろそろ別のことをやりたいと言い出すはずである。

     15球をワンラックとして、10ラックもすれば球をセットしている石黒の方も疲れてくる。「あたし一人でできますから」と言うと、「そうさせてもらうわ。」と石黒が先に根負けしたぐらいである。店番もあり、合間を縫っての練習をひたむきにやっている姿は、石黒やマスターらも感心した。彼女にとっては、「新しい明確な目標」と「やるべきこと」が決まっていて、忠実にそれを成し遂げている感覚だった。あの、テトリスをクリアしようと躍起になっているときの感覚とそれほど変わらない。あるいは体を動かしている分だけ充実感が勝っているかも知れない。

     お嬢と牛島のペアは叱ったり叱られたり、楽しそうにやっているが、彼らのことを気にもとめずに練習する佐倉の姿を見て、彼らもまたいい影響を受けようとしていた。


     佐倉がアルバイトの時間を終えて帰ろうとしたところへマスターが呼び止めた。「佐倉さん、エントリーだけど、Cクラスってことでいい?」佐倉には何のことかわからなかったが、アマチュアビリヤードにはランク付けがあり、AクラスからB、Cクラスなどに分けられる。通常、ハウストーナメントのようにお店単位で行われる試合にはビギナークラスが存在することもあるが、この試合ではCクラスが一番下位となるため、ビギナーの佐倉も出場する以上はCクラスでエントリーすることになる。
     説明されてよくわからないものの、他に選択のしようがないので、佐倉は「はい」と答えるしかなかった。


     佐倉南、諸事情によりこの大会からCクラスへ昇格となることが決定した。

     

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      | 第一章 ビリヤード場へようこそ | -
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        -- あらすじ --
        この物語は、主人公−佐倉がビリヤードを通じて様々な人と出会い、成長する様を描いていきます。 大学に通う一年生の佐倉は、同じ京都で間借りしている部屋の大家を通じ、ビリヤード場で働くことになります。人と接することが苦手で、自分の殻にこもっている彼女の心を、店の常連客らが徐々に開いていきます。 アットホームな雰囲気、厳しい先輩プレイヤーやプロの存在によって彼女の心境が変化していき、本格的なプレイヤーに成長していきます。やがてビリヤードがなくてはならない存在になり・・・。 序章で見せた佐倉の涙の意味するものはいったい・・・? これから始まるビリヤードのドラマに、しばしのお時間お付き合いください。

        -グーバーウォーク-



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