レース・トゥ・イレブン 〜 毎週火曜日連載・ビリヤードの長編連載小説です 〜
第25話 大家の猛攻
2011.05.24.Tue 07:00
JUGEMテーマ:連載
そうして向かえる5ラック目の龍のブレイクではラックがあまりきれいに散らず、何回かのショットでクラスタを崩しながら配置を有利に進めていく必要があった。 「ねえ、どっちが勝つと思う?」お嬢はいつの間にか佐倉のそばまで歩み寄ってきてこう尋ねた。 龍のプレイは割と派手な感じだ。手球がまるで生きているようにテーブルを自在に動き回る。しかし14−1ではあまりそのようなショットを多用しないため、抑え気味ではあるものの、彼本来の「上手い」と思わせるショットは随所に見られる。そのプレイに魅了され、観客たちは「うんうん。」と腕を組みながら感心していたのだった。 プレイの途中で龍は妙なことが気になり始めた。「このまま撞ききって勝ってしまったら、相手の婆さんのプレイを見ることもなくなってしまうよな・・・。」しかし、その後速やかに自らの考えを打ち消した。「それはそれで別にいいじゃないか。余計なことを考えるのは負けのもと。今はゲームに集中するのみだ。」 ビリヤードはインドアゲームであるが、常に同じ環境が確保されているかというかとそうではない。テーブルのメーカーの違いや設置環境の違い、ラシャの種類や張り方、テーブルの高さやラシャのコンディション、その日の気温や湿度、クッションゴムの高さや痛み加減・・・いろんな要素がテーブルコンディションを左右する。そしてそれを素早く見極めて対応するのもプロである。
フット側に固まったクラスタの配置をざっくりと頭の中にたたき込んだと思ったら、最初はゆっくりと慎重に、それからは次第にリズムがよくなってきて、ポンポンと非常にリズミカルに、スピーディーに残りの球を処理していく。 その場にいた誰もが驚いた。彼女がこんなに上手いとは思わなかった。いや、それよりも妙に力の抜けた無駄のない、それでいて流れるようなショットを繰り出す様は、高齢の女性という外見をすっかり忘れさせて周囲を魅了させている。
龍プロがそう評価している間にも大家のターンは途切れることなく、気がつけば圧倒的なリードも追いつかれ、追い越されるまでになっていた。 この光景を眺めていた佐倉は、両目にうっすらと涙を浮かべながら感激していた。自分の住んでいるアパートの大家が、いかにも強そうなビリヤードのプロと対戦していて、堂々と渡り合っていることに。それは傍らで見ていたお嬢や常連たちとも共通の思いだった。いつも歯に衣着せぬ物言いの大家が、もっとも好感を持たれた瞬間だった。
| 第一章 ビリヤード場へようこそ | -
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