レース・トゥ・イレブン 〜 毎週火曜日連載・ビリヤードの長編連載小説です 〜
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    第23話 龍の挑戦状
    JUGEMテーマ:連載



      秋の到来とともに全日本プロツアーも後半戦を迎え、ここ東京・渋谷には各地からトッププロやアマチュア選手のツワモノが集結していた。今年度のポイントランク上位者には気迫がみなぎり、上位を目指すプロにとっても何とか翌日の決勝戦に上位で残って巻き返しを図ろうと、選手らの熱気が会場全体を重苦しい雰囲気で包んでいる。

     


      プロ協会による試合前のミーティングでは、試合のルールや運営説明がなされ、運営者らの前には誰もが知る有名プレイヤー、トップランカーを始め100名近くテーブルを囲んで緊張感を高め合っていた。
     ミーティングが終わると、ワイシャツに蝶タイ、ベスト着用という華やかな服装を身にまとった選手たちが、それぞれ自分のキューの元に散っていく。堅牢な本革製のキューケースには、それぞれの選手のトレードマークとも言える豪奢なキューとブレイクキュー、ジャンプキューが組み立てられ、それを囲むの選手同士の会話にも日常と違った緊張感がみなぎっていた。
     さらに外側を包むように多くの観客らがこの試合の行く末を見守っていた。中には選手の応援団と思われる集団も見られる。

     この雰囲気にあって、観客や選手の間を縫うようにカメラを持って走り回っているのが、ビリヤード専門誌『プール・ナウ』の専属カメラマン兼記者である。彼は今が旬の選手らを回っては試合前の意気込みを聞き取り、試合結果を誌面に克明に伝えるために駆け回っていた。

     その彼が一人の男に近寄っていった。やや大柄でラグビー選手のようながっちりした体型、短く刈り込んだ髪に口ひげを蓄えていた。何より、黒いベストの背中には大きな龍の刺繍が施されており、その龍は左手に9番ボールを、右手に手球を鷲掴みにして天に昇る姿をしている。金糸も織り込まれたその派手な刺繍は相当に高価なものだろう。見ようによっては龍に魅入られた選手を喰らおうとでもしているかのようで圧倒される。人は彼を「龍」もしくは「龍プロ」と呼ぶ。

     「龍プロ、お疲れ様です。」と記者が言うと、龍プロは「ああ。」と無愛想に答えた。
     「調子はどうですかね?」決まり文句の質問をぶつけると、
     「いつもと変わらんがね。」と答えた。「ただ・・・なにかこう、しっくり来ないというか、思うように戦績が奮わないんだよなあ。今日はちょっと気合いを入れんとな。」と普段はあまり見せない弱音ともとれる発言だ。
     記者はメモをすると、龍プロに伝えたかった別の用件を切り出した。
     「そうそう、先日の話なんですけどね。わかりましたよ。」
     龍プロは少し思案して、何のことかはすぐにわかった。「で、どこのどいつだった?」
     「場所は京都で、堀川ビリヤードってとこらしいですわ。聞いたことないビリヤード場ですけどね。そこにそんな凄いプレイヤーが本当にいるのか、ちょっと疑問ですけどね。」記者は早口に用件を伝えると、軽く会釈をして別のプロ選手の方に小走りに去っていった。

     「堀川ビリヤードねえ・・・。来週大阪の試合に出るときにでも寄ってみるか。」そう独り言を呟くと、目の前の試合のため、もう一度気を取り直して準備に取りかかった。


     ダブルイリミネーションという形式で予選が始まり、龍プロは決勝戦には残ったものの、翌日のシングルイリミネーションの初戦で敗退してしまい、入賞することなく試合を終えてしまう。試合前のインタビューに答えていた通り、自身でもあまり好調とは言えず、プロデビューしたての頃と比べてもあまり奮わない戦績に悩んでいる龍の姿があった。


     週があけて、龍は大阪での試合出場を終末に控えていた。普段なら直前まで移動はしないのだが、ちょっとしたことから早めに移動してみようという気になったのである。
     気がつけば龍プロは京都までの切符を手にして新幹線に乗り込んでいた。移動中の車窓から富士山を眺めながら記憶をたどっていた。

     あれはそう、数ヶ月前のことだ。関東で主にプレイしている龍プロは関西のビリヤードの事情をあまり知らなかったのだが、あるプロが何年か前にふと訪れたビリヤード場でアマチュアプレイヤーに負けたという噂を聞いたのだ。相手は高齢にも関わらず、そのプロはアマチュアに歯が立たなかったという。「そんなはずはないだろう」とあらゆる否定的な噂を探ったが、どうも間違いないようだ。そして対戦して負けたそのプロは明らかに伸びてきており、龍プロにも対戦を勧めてきたのだ。ただ、どこの誰なのか?所在がハッキリしていなかったために、記者の力を借りたという次第である。


     その頃、堀川ビリヤードでは、もうすっかり人前で撞くことの恥ずかしさも感じなくなった佐倉が、接客の合間を見つけてはひたすらセンターショットを続けていた。この頃にはナインボールのルールも覚え、真っ直ぐ以外の、つまりフリのある球の狙い方も教わり、申し込まれれば相撞きもこなすようになっていた。
     ただ、そうは言ってもまだ初めて1週間かそこらではなかなか勝つことはできない。それでもとにかく楽しいのである。何回かに一度は、カーン!といういい音のショットができるようになってきて、先玉がポケットする音に自分で酔いしれているのだから。

     まだ早い時間だったので店はまだ空いていた。カランといって店の扉が開くと現れたのはがっしりとした体格に口ひげの男、龍プロである。
     「い、いらっしゃいませ。」と体格と出で立ちに圧倒された佐倉が挨拶をすると、彼は「おう、撞かせてくれ。」と言う。一般のテーブルに案内しようとすると、入り口奥の、華台として使っている台に通すように指さされ、そちらに移動した。

     佐倉はビリヤードのプロを見るのが生まれて初めてだったので、彼がプロだということに気付かなかった。龍プロは、トレードマークの龍の刺繍が入ったベストを着ると、手早くキューを組み立てて練習し始めた。数ラックほど撞いたところで佐倉が飲み物を運んでいると、マスターが奥から出てきて声をかけた。

     「原田龍二プロ。久しぶりやね。」というと、プロは「どこかでお会いしましたかね?」とやはり無愛想に言う。この店のマスターも無愛想だが、「いやあ、覚えてないかも知れんけど、何年か前のオープン戦やったかな。それですわ。」と言うと、「やっぱり覚えてませんね。」と素っ気なく答えるプロだった。

     「ところで、ここの常連かなんかで、相田って人を探してるんだけど、今日、来るかどうか、わかりますかね?」とプロが問うと、佐倉も一所懸命常連さんの顔を思い出しながら、「うちの常連さんにそんな人いませんよね?」とマスターに尋ねた。
     マスターは、「あはは。ミナミちゃんまで知らないって言うか。まあ、無理もないやろうけどね。」と笑いながら言った。佐倉にはその笑いの真意を計りかねるのだったが・・・。

     その和やかなムードとは裏腹に、龍プロの方は真剣な顔で用件を伝えた。「その相田って人と勝負しにきたんだ、東京から。ちょっと呼んでくれ。」と用件が進まないことにちょっとイライラしている様子なのも無理はない。

     マスターにもそのことが伝わり、「すみませんね」と軽く謝り、佐倉に「ちょっと大家さん呼んできてくれないかな?」と笑顔で言うと、佐倉は「はい!」と元気に答えて店のドアを開けようとした瞬間、振り返ってもう一度確認した。「ひょっとして・・・対戦者の相田さんって大家さんのこと!?」

     驚いた表情の佐倉に向かって、マスターは「そうだよ。行っといで!」というと、佐倉は「はい!」と返事して一目散にアパートの方向へ走り去っていった。


     

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        -- あらすじ --
        この物語は、主人公−佐倉がビリヤードを通じて様々な人と出会い、成長する様を描いていきます。 大学に通う一年生の佐倉は、同じ京都で間借りしている部屋の大家を通じ、ビリヤード場で働くことになります。人と接することが苦手で、自分の殻にこもっている彼女の心を、店の常連客らが徐々に開いていきます。 アットホームな雰囲気、厳しい先輩プレイヤーやプロの存在によって彼女の心境が変化していき、本格的なプレイヤーに成長していきます。やがてビリヤードがなくてはならない存在になり・・・。 序章で見せた佐倉の涙の意味するものはいったい・・・? これから始まるビリヤードのドラマに、しばしのお時間お付き合いください。

        -グーバーウォーク-



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