レース・トゥ・イレブン 〜 毎週火曜日連載・ビリヤードの長編連載小説です 〜
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    第18話 後期授業が始まって
     JUGEMテーマ:連載

     学生たちは長い夏休みに慣れきってしまったか、あるいは再び学友と顔を合わせることを心待ちにしていたのか、いずれの学生たちも外語大のキャンパスを目指して登校していた。

     英米語学科に在籍する佐倉の後期初の授業は英語セミナーの授業で、やや小さな教室の中に同じクラスの学生たちが一斉に集まった。あまり目立ちたくない佐倉は教室の後ろの方に座りたがるが、どの学生も似たり寄ったりかも知れない。前の方の席は閑散としていて、真ん中から後方はコミュニケーションの場と化していた。


     

     それにしても・・・と佐倉は思うのだった。前期と比べて同級生の女子たちの華やかなこと。一夏を過ぎるとそれまでいかにも純朴そうで化粧もしていなかった友達が、ばっちりとメークを決めて服装も華やかになっている。その代わり映えにただただ感心するばかりだった。
     それに引き替え、佐倉の格好は(いつもそうなのだが)たいていは上下ともジャージ姿、なのである。彼女はオシャレに対してあまりにも無関心だった。

     同級生の可南子はクラスの中でも仲良しで、ずっと一緒に「マイペースで地味な路線で行こう」と誓い合ったはずなのだが、夏休み中に知り合った彼氏と熱愛中だそうで、彼女の代わり様に佐倉も一歩引いてしまう。

     「ねえ、ミナミ。いつまでそんな格好なの?」と裏切り者の可南子は佐倉にいけしゃあしゃあと言うのだった。そして、佐倉がビリヤード場でアルバイトしていることを伝えると、可南子は驚いた表情で、「じゃあ、かっこいい人もいたでしょ? ねえ、今度紹介してよ!」と、彼氏がいるにも関わらず、である。
     可南子の彼氏はダーツをするらしく、ダーツマシンを併設しているビリヤード場にもよく顔を出すらしいのだ。
     だが、そう言われてもかっこいい人というのがパッと思い浮かずに困る佐倉。そもそもバイト先にはダーツのお客は来ないのでピンと来ないのもある。


     クラスメイトたちとの再開を果たして近況を伝え合ったりしているうちに、やや気だるい一日はあっという間に過ぎて、皆、思い思いにキャンパスを後にする。


     佐倉はアパートまでの通学には自転車を使っている。雨の日は少し大変だが、京都の町は割と小さいので、自転車での移動は便利だ。秋の気配が風となって心地よく流れていく感じがたまらなく良い季節になってきた。アパートまでは少し距離があるが、景色を楽しみながらのんびりと進むにはちょうどいい距離かも知れない。


     帰宅してから少しのんびりと過ごし、いつものビリヤード場に向かう。今日からは夕方から夜にかけての勤務シフトに変わる最初の日だ。まだ薄明るいうちに店に入り、マスター夫婦に挨拶して仕事に取りかかる。
     といっても、以前と違ってたいていの準備が済んだ後なので、それほど忙しなくはなかった。すでに入店している客もいる。そう言えば営業中の店に途中から入るのはこの日が初めてだ。

     他にも初めてのことはいくつか重なる。この日はゴッドマザーことマスターの奥さんが「特製カレー」のお手伝いを彼女に命じた。具材をおおざっぱに刻みながら大きめの鍋に仕込んでいくが、市販のルー以外に隠し味として鰹だしや醤油も使っている。具の方もなんだか普通と違っているような気がする。なるほど、だから特製なのか。
     こうした、少しずついろんな仕事を覚えられる環境が、彼女にとって楽しいことだった。

     カレーができあがるとお腹を空かせた常連客たちが殺到し、ガツガツと頬張ってはさっさとまたテーブルに戻ってビリヤードを始める。忙しいビジネスマン風の客も、即座に盛られたカレーライスをかっ込んで時間を惜しむようにビリヤードに興じている。
     よくそれだけ熱心になれるものだ、と佐倉は常々思っている。そしてカレーの分け前を賄いとして食べさせてもらうのだが、何とも和風テイストで変わった味だった。


     そして、8時を回る頃にバイクの音がドッドッドと辺りに鳴り響く、もうお馴染みのシーンだ。お嬢の登場である。

     「おはようございます!」皆に満面の笑みを振りまくように、ハッキリと挨拶をしていくお嬢。彼女は皆から慕われていた。それは彼女の性格からだろう。佐倉もハッキリとそう感じていた。そのお嬢を今日はいつもよりたっぷり見ることができる、佐倉にとっても幸せな時間がやってくる。じっと見ていると、お嬢の方も見られていることを心なしか意識しているようだったが、相変わらず最初には決まった練習を始める。その間、常連客の誰一人として彼女を誘おうとしない。この店の決まり事であろうか。


     お嬢はいつものようにテーブルの中央にカラーボールをセットして、白い球もほぼ決まったところにセットしてショットを繰り返す。同じことを何度も繰り返しては首をかしげたり、頷いて見せたり、一人なのにまるで誰かと闘っているかのように真剣に。

     仕事をしながら、合間を見てはその様子をちらちらと伺っている佐倉だが、「そういえば・・・」ふと思い立って、店の本棚の中にビリヤードの入門書があるのを思い出した。そのうちの一冊を取り出してパラパラとページを繰り、その練習方法を探そうとするが、その本には載っていなかった。


     ただ、手に取った以上、また最初から流すように本を読んでいると、フォームの作り方やショットの仕方、9ボールゲームのルールなどが書かれていて、「ああ、なるほど。みんなこれで遊んでるんだ。」そう思うと読書好きな彼女はもう一度最初からじっくりと読んでみることにした。読んでどうこうなるものでもないかも知れないが、今の彼女にとってはそれが娯楽と言ってもいいのだろう。
     途中まで読んでいて、仕事で中断するときなどは、本の間にしおりを挟んでおいていつでも続きが読めるようにしておいた。

     ゲームについては多少、理解してきたようだ。ちょうどその頃、お嬢が練習を終えて一息ついたところに、世話焼きの石黒が合い撞きを申し入れた。「お嬢、ちょっと撞こうか?」「はい、お願いします。」
     こうして二人の5セット先取のセットマッチが始まった。

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      | 第一章 ビリヤード場へようこそ | -
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        -- あらすじ --
        この物語は、主人公−佐倉がビリヤードを通じて様々な人と出会い、成長する様を描いていきます。 大学に通う一年生の佐倉は、同じ京都で間借りしている部屋の大家を通じ、ビリヤード場で働くことになります。人と接することが苦手で、自分の殻にこもっている彼女の心を、店の常連客らが徐々に開いていきます。 アットホームな雰囲気、厳しい先輩プレイヤーやプロの存在によって彼女の心境が変化していき、本格的なプレイヤーに成長していきます。やがてビリヤードがなくてはならない存在になり・・・。 序章で見せた佐倉の涙の意味するものはいったい・・・? これから始まるビリヤードのドラマに、しばしのお時間お付き合いください。

        -グーバーウォーク-



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