レース・トゥ・イレブン 〜 毎週火曜日連載・ビリヤードの長編連載小説です 〜
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    第14話 常連たちの企み(2)
    JUGEMテーマ:連載


      そう尋ねたのはやや年配の、50歳前後の男性だった。この店の常連客は気さくで人なつっこく気軽に話しかける人が多かったが、彼もそのうちの一人で、若い一見のお客がふらっと店を訪れてもすぐに話しかけて打ち解けてしまう。たまには身の上話の相談に乗ることもある、兄貴分的な存在だ。



     あまりにも直球の質問、それに周りの客たちも注目して聞き耳を立てたり、佐倉の方に視線を向けていたので、佐倉としては「そんなに私に注目しないで!」という気持ちだった。

     佐倉の気持ちに気づいた兄貴分も場を和らげようと、「ちょっと言い過ぎた。ゴメン、そんなつもりじゃなかったんだけど・・・。ただ、一緒にビリヤードをやってくれたらと嬉しいな、と思ってね。」と訂正した。

     佐倉の方も、何か気まずいような雰囲気を振り払いたい気持ちで、素直な気持ちを打ち明けようと努力する。「別に嫌いじゃなくて、なんていうか、まだ興味がわかないだけなんです。」そのまま続けるように、「あたしにはなんだか出来そうに思えないし、みんなはすごく上手に見えるし、初心者が一緒に混ざってもおもしろくないでしょう?」

     それには一同、うーんとうなりながら首を横に振っている。「そんなことないんだけどなあ。ちょっとやればすぐに上手になるよ。」

     「何でも上手くなったら、それなりに楽しいとは思うんだけど、まだそれほど上手くなってみたいとか、そういうのがなくって・・・。」と佐倉が言うと、兄貴分はじめ、他の常連たちも、「うんうん、なるほど。」と多少の理解を示す。
     「つまり・・・」兄貴分が続けた。「たとえば、だ。車の営業やっていたとしても車そのものに全然興味のないやつはおる。佐倉さんはアルバイトだし、自分の仕事を一所懸命やっているところだから、興味を持つかどうかは・・・」周囲を見渡して多くが同意しているのを見届けると「何かのキッカケか、時間が必要やっていうことかなあ?」

     黙って聞いていた店主もそれに同意した。「だから、まあ、温かく見守ってあげたらええんや。自分から撞きたい思うたら撞いたらええし。」

     こうしてこの話は一件落着し、常連客のフィーバーぶりもいったんは休止ということで落ち着きを取り戻しそうだ。


     「ところで・・・」少し若い30歳代の常連が尋ねた。「佐倉さんは、今までに何かに打ち込んできたものってあるん?」こうした話題なら佐倉も答えやすいだろう。あまり注目されるのは好きではないにしても。

     「そうですね。うーん・・・」と佐倉は宙をみながら中学高校時代を振り返ってみる。クラブ活動などはあまりしていなかったが、そういえば一つ思い当たることがあった。「すごく地味だけど・・・」こう話し出すと、他の客も聞き耳を立てて興味を示した。「テトリスが得意といえば得意です。」

     その場にいた多くが「へえ〜!」と感心した。ロシア人が開発したと言われる落下型ゲーム『テトリス』は日本でも大ブームとなっていたが、それは幅広い年齢層にまたがってヒットしていたので、むしろ知らない方が少数派だろう。

     「テトリスと言えば、確かどっかにあったで。」と若手が言うと、店のテレビが置いてある棚の中をゴソゴソとしだした。「この店、古いから、たいていの古いもんはあるんじゃないかな?」と言うやいなや、「お!これや!」とゲーム機とカセットを見つけ出して持ってきた。「これ、まだ動くかなあ?」と心配そうに若手が言うと、店主は「動いたと思うで。」とぶっきらぼうに答える。

     さっき尋ねた30代が電気屋で働いているので、店の古いテレビに繋いでみた。あっという間にゲームがセッティングされ、プレイできる状態になってしまった。つまり、どれだけ出来るのか?様子を見ようということだ。


     佐倉は常連たちの連係プレイの素早さに面食らいながらも、「ちょっとやって見ていいですか?」と佐倉が聞くと、店主はもう佐倉の勤務時間が終わっているので、「どうぞ。」と無愛想に答える。
     ゲーム画面が起動すると、その真ん前に佐倉、そして周囲に常連客らが集まり、ビリヤードをそっちのけで成り行きを見守ろうとする。そしてゲームが始まるや否や、一同は今まで見たこともないようなゲームの動きを目にした。四角形を4つ組み合わせたブロックは『テトリミノ』と呼ばれ、7種類ある。これらが佐倉の操作によって、尋常ではない早さで積み上げては消され、あっという間にスコアやレベルが上がってくる。
     
     「すげ〜!」とは若手の弁で、彼以外もその超人的な技、瞬間的な判断力に釘付けになる。「なんか俺たちがやってたテトリスと全然次元が違う!」「神やわ。」などのさまざまな賛辞が飛び交う。
     一同が感想を漏らしている間にもどんどんテトリミノが積み上げられては消され、だんだんとスピードアップしていく。一方、佐倉の表情は普段とあまり変わらない冷静さを保っており、常連の話しかけにも応じるほどの余裕だ。
     そうして迎えたゲームのエンディング、「テトリスのエンディングなんて初めて見た。感動した!」「いいモン見せてもらったわ」などなど、皆一様に感心していた。


     そして、常連たちが感じていたのはさらに別の部分でもあり、それはつまり、彼女が非常に「はまり性」なこと。もし彼女がビリヤードを初めてそれが彼女に合ってさえいれば、すごくはまりそうだな、という期待感につながった。

     ビリヤード場には多趣味な人たちも多くいて、単にビリヤードで話が合うだけに限らず、他のいろんな趣味や嗜好が友人関係をより親密なものにしている部分がある。そうした面で、彼女のこの特技は常連客をもうならせるに十分だった。


     
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      | 第一章 ビリヤード場へようこそ | -
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        -- あらすじ --
        この物語は、主人公−佐倉がビリヤードを通じて様々な人と出会い、成長する様を描いていきます。 大学に通う一年生の佐倉は、同じ京都で間借りしている部屋の大家を通じ、ビリヤード場で働くことになります。人と接することが苦手で、自分の殻にこもっている彼女の心を、店の常連客らが徐々に開いていきます。 アットホームな雰囲気、厳しい先輩プレイヤーやプロの存在によって彼女の心境が変化していき、本格的なプレイヤーに成長していきます。やがてビリヤードがなくてはならない存在になり・・・。 序章で見せた佐倉の涙の意味するものはいったい・・・? これから始まるビリヤードのドラマに、しばしのお時間お付き合いください。

        -グーバーウォーク-



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