レース・トゥ・イレブン 〜 毎週火曜日連載・ビリヤードの長編連載小説です 〜
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    第8話 鳴り響く電話
     年配の大家は長年このアパートの管理人も勤めていたので、電話が鳴る時間帯やシチュエーションによって、誰からのどんな電話か、直感的にわかることが多かった。この日はもちろんシチュエーションとしては多くの住人が出払っており、あまりいい知らせではないか、はたまた遠方からの突拍子もない要件か、いずれにしてもいつもとは趣の異なった電話であろう、と推測された。


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     その読みは当たっていた。しかし相手は先ほど外出した佐倉ではなく別の人物のようだ。

     「ああ、そうかい。それはご愁傷様だったね。奥さんにはよろしく伝えといてね。店の方はしょうがないけど、奥さんの体の方が心配だからね。あたしも落ち着いたら見舞いに行くよ。」

     話しの要件が終わると、狭い管理人室の小さなドアを開けて大家が出てきた。どうも、大家が管理している別の店の奥さんが急病で入院したということだったらしい。

     そうこうしているうちに、暑気で疲れ切った顔で佐倉が帰ってきた。何も言わずに廊下をすり抜け、奥の階段へと歩んでいく。

     「ただいまぐらい言いなよ。」大家は聞こえるほどではない小声で佐倉に言った。
     (どうせ耳栓をして聞こえていないんだろうけどさ。)

     そうしてまた管理人室に戻ると、アパートに届いた夕刊をパラパラとめくり、ひと通り目を通したあとで新聞を畳んで持ち出し、管理人室の明かりを消して部屋の鍵を閉め、新聞は住人たち共用のラックの中に仕舞い込んだ。いまどき、あまり新聞を読む学生は少ないが、それでも学生の本分は勉強であり、社会情勢の一つでも勉強してもらおうとの配慮だったのだが。

     夏場だったのでよく虫が部屋の中に飛び込んでくるので2階の窓の戸締まりを確認に階段を上っていくと、さっき部屋に戻ったはずの佐倉が床に倒れていた。

     「おい、どうした? しっかりしな!」

     大家はビックリしてうつ伏せに倒れた佐倉の肩を揺らし起こそうとしたら、確かに暑気バテしてはいたものの、床の上で寝ていただけだった。

     さすがにばつが悪かったのか、無反応なはずの佐倉が口を開いた。

     「あ、ごめんなさい。暑くてバテちゃって、床に寝転がっていたら気持ちよくて、そのまま寝ちゃって・・・」

     まったく人騒がせで呆れたものである。
     「だから麦わらしてけって言ったのにね。」と言うと、「聞こえてたんだけど面倒だったし。」と素っ気ない返事をする。
     「聞こえてなかったんじゃないの?」と大家が両耳にイヤホンをするジェスチャーをして見せると、佐倉は「ああ、あれは英語です。英語の勉強しながら散歩してたから・・・。だからちょうど聞こえてはいたんですけどね。」
     
     それなら返事ぐらいしたって良さそうなものだ。大家としてもこれ以上責めるつもりもなかったので、「夕食まだなら一緒に食べるかい?」と誘った。

     佐倉の方は、一瞬はちょっと面倒くさいと思ったのだが、それよりも空腹の方が勝っていたため、誘いを受けることにした。とは言っても、どこでどんな食事とするのか、話しを合わせるのがやはり面倒に思える佐倉だった。

     
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      | 第一章 ビリヤード場へようこそ | -
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        -- あらすじ --
        この物語は、主人公−佐倉がビリヤードを通じて様々な人と出会い、成長する様を描いていきます。 大学に通う一年生の佐倉は、同じ京都で間借りしている部屋の大家を通じ、ビリヤード場で働くことになります。人と接することが苦手で、自分の殻にこもっている彼女の心を、店の常連客らが徐々に開いていきます。 アットホームな雰囲気、厳しい先輩プレイヤーやプロの存在によって彼女の心境が変化していき、本格的なプレイヤーに成長していきます。やがてビリヤードがなくてはならない存在になり・・・。 序章で見せた佐倉の涙の意味するものはいったい・・・? これから始まるビリヤードのドラマに、しばしのお時間お付き合いください。

        -グーバーウォーク-



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